悪魔病

悪魔病

 ある日、一人の化学者は知ってしまった。
 この世に「悪魔病」という病が存在する事を。そして、既に自分自身が悪魔病に罹っている事を。
 化学者は、悪魔病の存在を知ったその日から自分自身を被験体として悪魔病についての研究を始めた。
 悪魔病の正体を解明するまでに化学者は五年の歳月を要した。
 研究した結果、悪魔病は体を蝕む病気ではなく、心を蝕む病気だという事がわかった。そして、死に至る事はないが不治の病であり、ヒトの体内に元から遺伝子レベルで組み込まれている事が判明した。
 悪魔病が重症化すると、ほとんどの人は心に悪意が芽生え、犯罪に手を染めたり、他人に危害を与える症状があらわれるようだった。
 五年の研究期間の中で化学者は悪魔病に対する特効薬やワクチンの類を開発する事はできなかったが、悪魔病を抑制する方法、いわゆる重症化させない方法を見つけた。
 悪魔病を抑制する方法、重症化させない方法とは、それは、悪を受け入れる事、必要悪を持つという事だった。
 化学者はこれまでの悪魔病に関する研究結果を学会で発表するために準備に取り掛かった。
 しかし、発表の準備を進めていくなかで化学者はふと考えた。

 悪魔病の存在を知った人達は、これからどうなってしまうのだろうか? 特効薬もワクチンもない。抑制する方法としての悪を受け入れる事、必要悪を持つ事が今後どのような影響を及ぼすのだろうか? ある人にとっての必要悪が他の人にとっては絶対悪で命に関わる事かもしれない。悪魔病の存在を学会で発表したら世界は混乱するかもしれない。悪魔病の存在を学会で発表して世界に知らせる事、それは善なのか? 悪なのか?

 善なのか? 悪なのか?

 化学者は自身の悪魔病の重症化を抑制するために一つの必要悪を持った。
 化学者の持った必要悪とは、悪魔病の存在を学会で発表せず秘密にするという事だった。

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風富来人

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