ちいさいおじさん(仮)※R指定

065021_R

 放課後。
 六年一組の教室に、二人の女子生徒が残っていた。
 二人は机を挟んで、向かい合わせに座っている。一人の少女がおもむろに、口を開いた。
「ねぇミコ、今日はどう?」
 ミコと呼ばれた少女は、目を細めると、教室の端をじっと見つめながら言った。
「うん、いるよ。レイコちゃんはホント、ちいさいおじさんが好きだね」
「何かさ、ロマンがあって良いじゃない?」
 そう言って、レイコと呼ばれた少女は、照れくさそうに笑ってみせた。
「あーあ、あたしにも霊感があればなぁ。ミコがうらやましいよ」
 レイコは天井を見上げて、そんなふうに呟いた。
 
 私は、そんな二人のやり取りを、ぼんやりと眺めていたのだった。
 ミコはもったいぶって言った。
「今日も、呼んでみる?」
「うんうん。ちいさいおじさん、今は何してる?」
 レイコが聞くと、ミコは両手の人差し指をこめかみにあて、眉をしかめてみせる。そして「んん~」と、うなり声をあげたのだった。
 やがて、ミコはゆっくりと口を開いた。
「えっとねー、なんだろう。すごい真剣な顔してるよ。何か考え込んでるような・・・・・・あ、詰め将棋だ。詰め将棋をしてるよ!」
「マジで? ちいさんおじさん、渋いね!」
 レイコは感激して、目を輝かせた。
 
 私は言った。
――適当なことばっかり言いやがって――

 ミコという少女は、ウソをついている。彼女には、ちいさいおじさんなど見えていないのだ。単に、思春期におけるアイデンティティーの芽生えとも言える。だが時にそれは、奇跡とも呼べる現象を起こしてしまうことがあるのだ。
 レイコが言った。
「ちいさいおじさんって妖精なのかな?」
「そうだよ」
 得意気にそう答えるミコの表情からは、明らかに優越感が見て取れた。
 
 全裸の私は言った。
――妖精じゃないよ。仮性だよ。なんちゃって――
 
 ミコとレイコからは、何の反応も返ってこなかった。
 お気づきの方もいるだろうが、私こそが、ちいさいおじさんである。私は普段、めったに人間の前に姿を現わすことはないのだが、その日は、少女たちを少し驚かせてやろうと、そんないたずら心が働いたのだった。
 ことさら興味があったのは、ミコという少女の反応である。今まで散々ウソをついてきた手前、本当に私の姿が見えた時、果たして正気でいられるのだろうか。
 私は、そんなことを想像して、いても立ってもいられなくなったのだった。
 
 私はさっそく、姿の一部を少女たちの前にさらけだした。
 先に気づいたのは、レイコだった。
 机の上を見て、目を見開き、そして叫んだ。
「ねぇ・・・・・・ミコ! そこにいるの、ちいさいおじさんじゃない?」
 直ぐさま、ミコも私に気づいたようだ。一瞬、悲鳴を上げそうになった様を、私は見逃さなかった。

――ざまぁみろ――

「う、うん。それが、ちいさいおじさんだよ・・・・・・うん」
 ミコは引きつった表情で、辛うじてそれだけ言った。

――ほう、なかなか肝の据わったお嬢さんじゃないか。では、もっとサービスをして差し上げないとな――

 私はミコの方へとにじり寄ると、苦労して、なんとかミコの肩に乗せてやった。
「あ、ちいさいおじさんが肩に乗ってる! やっぱりミコは意思の疎通ができるんだね!」
 レイコはすっかりはしゃいでいた。
 ミコの肩が震えているとわかると、私はいよいよある種の興奮を覚えたのだった。
 レイコが言った。
「ちいさいおじさん、何かしてくれないかな? ミコ、頼んでみてよ」
「う、うん・・・・・・でも、忙しいんじゃないかな・・・・・・うん、忙しいって言ってるよ。えっと、宅急便が来るからもう帰らないとだって」
 もちろん、私は言っていない。
 レイコが残念そうな顔で言った。
「そっか、じゃあしょうがないね・・・・・・」

――諦めるの早いな――
 
 このままではおもしろくない。私は出血大サービスで、腰を横に振り、踊ってみせた。
「ちょ、ちょっと! ちいさいおじさんが踊ってるよ!」
 二人から見れば、ちいさいおじさんが、コサックダンスを踊っているように見えたことだろう。
「う、うん。心の中で、踊ってってお願い、してみたんだ・・・・・・」
 ミコは上手く話を合わせたようだ。
「なんか、陽気だね。良いことでもあったのかな?」
 ミコは半分泣きそうになりながら、私の方へと向き直り、手を耳に当てたかと思うと、急に明るい表情を作って言った。
「ふむふむ・・・・・・従兄弟が結婚したんだって、そう言ってるね」
 ちなみに、私に従兄弟はいない。
 
 私は次に、ミコの肩から滑らせるようにして、手のひらへと移動させた。
 すると、レイコが興奮して言った。
「すごい! ミコちゃん、手乗りちいさいおじさんだね!」
 ミコも少し場に慣れてきたようだ。今度は、得意気に言った。
「うん。普段から、こうして遊んでるんだよ!」
 レイコは改めて、ちいさいおじさんを、まじまじと観察して言った。
「へぇ、ちいさいおじさんって、帽子? みたいなの被ってるんだね」
「うん、そういうおしゃれなんだってさ」


 私は頬を赤らめた。
 ミコとレイコはじっと見つめている。
 手のひらに乗せた、私のムスコを。
 見つめているのだ。
 私は我慢できずに、二人に聞こえるように囁いた。


「それは、ちいさいおじさんの(カリ)だよ」
 
 ミコとレイコは目を見開き、顔を見合わせた。しばらくの沈黙の後、ようやくレイコが口を開いた。
「今……なんか聞こえた、よね?」
 呼応して、ミコの喉がゴクリと鳴る。
「うん。カリだよって、言ったね」
「うん。でも、カリって何の事だろう?」
「あ、消えた……」
「消えた……ね」


 首を傾げる少女を尻目に、私は恍惚とした表情で帰路についたのだった。

 

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酒井貴司

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コメント

  1. 酒井貴司 酒井貴司 より:

    秋ということで……。
    これは、すんごい初期に書いた作品です。
    久しぶりに見返して、最初の気持ちを思い出すことができました。
    ホント、くだらなくてすみません。でも、それでいいのだ!

  2. にゃおっく より:

     これはヤバイ、ヤバすぎる(笑)
    ビジュアル想像しちゃったじゃないですか!
    「私はいよいよある種の興奮を覚えたのだった。」は名句……じゃない、迷句ですね。
    発想が面白いので下ネタとは別の方向でも十分面白くなりそう。

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