貧乏神

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 いつも通りの仕事をいつも通りの時間に終えて、近道も遠回りもせずにまっすぐに帰宅。
 二階建てのマイホームの門を開ける前、ふと屋根を見ると人影が見えた。
 傾斜のない平屋根の上に男がいる。
「誰だお前は! そこで何をしている!」
「あらら。私のことが見えるのですか? まいったな……」
 屋根の上のみすぼらしい恰好をした男は、乱暴に頭をかいた。
 よく見ると、男の体から青空が透けて見える。
「もしかして幽霊……」
 俺はたじろいだ。身を縮ませながらもよく見てみるが、角度的に足があるかどうかは確認できなかった。
「いいえ……。私、非常に申しあげにくいのですが、貧乏神です」
「なっ。何だって?」
 貧乏神だと? 地道にコツコツと稼いできて、最近やっとマイホームを手に入れたというのに、これから貧乏になってしまうと言うのか。
 固まっている俺をよそに、貧乏神は屋根の上にテントを張り始めた。
「何をしている? そこに住むつもりか? そのテントはどうした?」
 矢継ぎ早の俺の質問に、
「テントを張っています。住むつもりというか、今までも住んでいました。一年間、ここで富を蓄えてやっと手に入れたテントです」
 と貧乏神はテンポよく答え、なおもしゃべり続ける。
「我々貧乏神は、皆様の小さなやさしさに支えられて生きております。つまり取り憑いた家の富をほんの少しだけ頂いて生き長らえているのです。でも貴方の生命を脅かすほど、富を吸い取ったりしませんよ。富の上澄みを少し頂くだけです。まあ、寄生虫みたいなものですね。宿主が死んでしまったら元も子もないですから。昔はやたらめったらに富を奪いつくしていたので、忌み嫌われ、おはらいされたりして仲間の数も減っていったのです。そんな先人の失敗から学んだ生活の知恵です」
 なるほど。理解した。
「……しかし、富を奪われることには違いないのだろう」
「奪うなんて物騒な。逆に良いこともあるのですよ」
「貧乏神に取りつかれて良かったなんて話は聞いたことが無い」
「では、もう少し詳しく説明しましょうか。私はこの街の貧乏担当なのです。ここで細々と貧乏をさせて頂くことで、この街自体は貧乏を背負うことはなくなるのです。この街の景気は逆に少し良くなっていると思いますよ。いい話じゃないですか?」
 へえ、最近の貧乏神というのはそういう仕組みになっているのか。確かに貧乏神に取りつかれている実感はなかったし、この街の景気も良くなっている気がする。街のためにちょっと余計に税金を払っているようなものか。
 俺は納得し、貧乏神をそのまま放っておくことにした。
 その後、何事もなく生活は続いた。屋根の上には相変わらず貧乏神のテントがあった。だが、特に物音を立てるわけでもないし、他の人間から見えることもないから、日々の生活には支障が無い。貧乏神が言ったように、金に困ることもなかったし、街も活気づいて逆に潤っているような感覚すらある。

 ある日の朝、妻にたたき起こされた。
「あなた! 起きて! 大変!」
 何だ。もしや貧乏神が変な気を起こしたのじゃなかろうな。
「当たったの! 宝くじ!」
「え? 当たった? いくらだよ」
「一〇〇万円よ! 一〇〇万円!」
 妻が俺の目の前に、一枚の宝くじと新聞を突きつけた。
 これは驚きだ。貧乏どころか、富が舞い込んでいるじゃあないか。あいつめ、どうやら嘘をついているな。貧乏神じゃなく福の神なんだろう。油断させておいて宝くじを当ててくれたんだ。何とも粋な事をしてくれるもんだ。感謝を伝えねば。
 俺は玄関から外に出て屋根を見上げた。

 二階建てのマイホームの上に、三階建ての一軒家が建っていた。

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くにさきたすく

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