ハリネズミのみた夢

はりねずみの見た夢

 ハリネズミのライリーは目を覚ますと、まずズタズタに破れたシーツの片付けをはじめます。

 ライリーは、自分の体を覆うチクチクした『トゲ』が大嫌いです。歩くたびに部屋中のものをひっかけるので、カーテンやソファは穴だらけになります。

 窓からさしこむ日の光も、窓を叩きつけるように降る雨も、ライリーには関係ありません。

 ライリーは日のあるうちは外に一歩も出ないからです。

 広々とした野原で昼寝をしたことも、お日さまの光がきらきらと輝く川で水浴びをしたのもずいぶん前のことのように思えます。

 森に出なくなったのはいつからだろう、とライリーは思いました。
 ある時、走ってきたうさぎとぶつかりそうになって、うさぎが「くし刺しになったら、どうするんだ。あぶないじゃないか」と怒りました。

 ライリーは「そのときは、そのまま焼いて食べてやるさ」と言い返しました。

 もちろんライリーは本当にそうするつもりはありませんでした。
 でも、うさぎは顔をまっしろにして、逃げていきました。

 その頃から、ライリーは森の動物たちに避けられているような気がしはじめました。  
 楽しそうにおしゃべりをしていたリスとねずみがライリーを見ると、ぱっと逃げ出すこともありました。
 ライリーはそんなときは知らんふりして、気にしないふりをしました。

 ところがそういったことがつづくと、ライリーは胸がキュッとしめ付けられるような気持ちになりました。

 だからといって、笑顔でみんなに話しかけに行く勇気もありません。

 遠目に動物たちが笑ってはなしているのを見ると、「ああ、ぼくの『トゲ』のことをわるく言っているにちがいない」と思うようになりました。

 ライリーは気にするな、気にするな、と心の中で言い聞かせましたが、日に日にライリーの目はつりあがり、口はふきげんにへの字の形になりました。

 ライリーは森のみんなが寝静まった頃、外に出でるようになりました。

 それもこれも、すべて『トゲ』のせいなのだとライリーは忌々しく思いました。

 いつものようにライリーが夜遅くに水を飲みに、泉に行くと、フクロウが音もなく近づいてきました。

「やあ」

 フクロウの声におどろいたライリーは、慌てて枝にとまるフクロウを見上げました。

「なにか用かい?」

 久しぶりに声を出したライリーの声は少しふるえていました。

 そんなライリーの様子を見てフクロウはくっくっと笑いました。

 ライリーはフクロウから見下ろされ、恥ずかしくなり体を小さくしました。

 フクロウは言いました。

「君は、トゲを気にして、家に閉じこもっているそうだね」

 フクロウの言葉にライリーはぶっきらぼうに「だったら、なんだっていうんだ。きみには関係のないことさ」とつよく言いかえしました。

 ライリーは自分のことを人にとやかく言われたくなかったのです。 フクロウはまたくっくっと笑いました。

「それがそうでもないんだよ。・・・ほら、トゲをなくすくすりだよ」

 フクロウは足にひっかけた袋を揺らして、ライリーの様子を見ました。

 ライリーはそんなものに興味はないというふりをしていましたが、心のそこから薬がほしいと思っていました。浮き立つ心をおさえて、ライリーは尋ねました。

「その、薬の代わりに、君は何がほしいんだい?」

「君の望みが叶えば、それでいいのさ」

 フクロウはそれだけ言うと、薬の入った袋を落とすと、闇夜に溶け込むように消えました。

 ライリーが恐る恐る袋に近づくと、袋から赤い玉がころがり出できました。
 玉を一つつかむと、フクロウの気がかわらないうちにと、ライリーは、走って家に帰りました。

 ライリーが玉をじっと見ると、つるつると光る丸薬の表面に映った自分と目が合いました。

「よし」

 ライリーは玉を口の中にほうりこみました。
 玉は、甘くて、苦くて、酸っぱくて、辛くて、熱くて、冷たくて。
 ライリーの心臓がバクバクと大きな音を立てました。ライリーは目を白黒させながら、やっとのことで玉を飲み込みました。
 飲み込んでしまえば、なんてことはない、とライリーは思いました。
 しばらくして、ライリーはそっと背中に手をのばしたが、固くて、鋭い『トゲ』がありました。
 ライリーはがっかりする気持ちに気が付いて、やれやれと首を横に振ると、ベッドに入りました。

 次の日の朝、ライリーはつやつやとしたシーツに包まれて目が覚めました。

「シーツがやぶれてない」

 ライリーは飛び起きると、鏡の前に走りました。
 鏡の中には、『トゲ』がすっかりなくなったライリーが映っていました。
 ライリーは嬉しさで、胸がいっぱいでした。

「こんなに簡単なことだったんだ。もう何も悩むことはなにもない!」

 ライリーは笑い声をあげながら、外にでました。

 家の外に出ると、フクロウがライリーの元に飛んできました。   
 ライリーは大きな声で、「フクロウさん、ありがとう」と言おうとしました。
 けれども、ライリーはその言葉を口にすることはできませんでした。

 フクロウは鋭く尖ったくちばしを素早く縦に開き、赤い口をのぞかせると、ライリーに食らいつきました。

 フクロウは「喜んでもらえて、うれしいよ」と言って、手に入れたごちそうをゆっくり味あうために、巣へと帰っていきました。

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